漢服の楽しみ方

デザインコンセプトは詩?中国ファッションの教養溢れるセンスが魅力的すぎる

 漢服愛好家のぬぃです。

 今回の記事では、すこし趣向を変えて、漢服や新中式ファッションのデザインコンセプトについてお話していきたいと思います。

 ふつう、ファッションのデザインコンセプトというと、着ていく場面だったり、モデルにしている雰囲気だったり、模様の原案になっている植物だったりするのは何となくイメージできると思います。

 ですが、中国の通販サイトをみていると、デザインのコンセプトとして詩歌などが載っていることがあります(「設計霊感」と書いてあることが多いので、「デザインのインスピレーション」という意味です)

 これって、いままでわたしはほとんどみたことがないものだったので、初めてみたときは「こんな服づくりがありなのか……」と衝撃をうけたのを覚えています。そして、詩歌を楽しんだり、ファッションで好きな装いをすることを楽しんだりを一緒にしている文化って、教養にあふれていて、知的で優雅で魅力的だなぁ……とうっとりしていました(笑)

 むかしの貴族さんが、きちんと詩歌や古典文学などを嗜んで、心の内面もゆたかにしながら、お出かけするときはきれいな装いに丁寧に身をつつんで、幸せも感じられる生活って、すごくあこがれませんか……。

 ファッションと一緒に文学や古典作品も楽しめる文化的な上流階級さんになりたい……という憧れがすごくあったので、そんなファッションの楽しみ方を少し紹介させていただきます。

 なお、中国の文章がすこし出てくるのですが、日本語に訳したものを載せるので、ほんのりと雰囲気だけでも感じていただけたら嬉しいです。

芙蓉の衣

 まずは、こちらの上衣からご紹介させてください。

 この子のデザインコンセプトは「菱と蓮葉で衣をつくり、芙蓉の花を裳裾にして……」というものです(『楚辞』離騒「制芰荷以為衣兮、集芙蓉以為裳」より)。

 このデザインをした方は、ずっとその詩の一節が好きで、菱の葉やハスの葉がゆれているような服をつくってみたと書いています(芙蓉もハスの花のことです)。そういう感性、ほんとうに素敵です。

 実際に菱や蓮の葉をもちいて服をつくるのはむずかしくても、ゆらゆらとゆれる水のような光沢感のある生地の織柄があって、その上にあわい色彩でハスの葉やお花が刺繍されていて、やわらかい霧や香りのようなものが漂っていたり、その下に織柄で植物模様が入っているのが、中国風のゆるやかな水辺の風景のようで、もはや工芸品だと思います。

 あと、単純にハスの花や菱の葉を描くだけでなく、そのまわりにある水や香り、周りにある水草や水面の模様なども感じさせるところが、ほんとうに素敵です。詩歌に身をつつむって、教養を身につけているみたいでいいですよね(笑)

鳳飛四海兮

 つづいては、こちらの馬面裙です(わたしが初めて買った漢服なので、思い出の一着です)

 こちらは特に出典がある文章ではないのですが、原文と訳したものをのせておきます。現代になってもこういう作品が作れる感性の人がいるって、すごいです……。
(すごく余談ですが、中国文学を専門にしていたことがあると、詩経や楚辞を混ぜたような読みやすいけど古色を残している文体をみると、唐の初めっぽい雰囲気とか思ってしまいます笑)

有一美人兮、見之不忘。
一日不見兮、思之如狂。
鳳飛翺翔兮、四海求凰。

あるところに美き人ありて
これをみて忘れず。
一日にして忽ち見えず、
狂うばかりに思いこがれて
鳳はあちこち飛び回り、
四方の海に凰をさがす。

 鳳凰は、鳳がオス、凰がメスとされています。そして、馬面裙の柄としては、金糸で鳳凰の模様と、その下には海の波という組み合わせです。全体の色が緑というのも、海の水がたっぷりと緑にゆれている雰囲気があって、波模様の緞子になっているのも素敵です。上にある花瓶の模様も、鳳凰の婚儀のかざりみたいな感じがしてきませんか(笑)

 こういう詩的な想像力を混ぜたファッションのデザインって、ふつうに模様を組み合わせるよりも、全体にどことなく漂う香気のようなものが出てきて、しかも柄どうしの響きあいが感じられて魅力的です。

 さらにもう一つ気に入っているものを紹介させてください。

夕方の水面に

 こちらは、瓔珞(中国ふうのネックレス)のコンセプトになった詩です。

 作者の周密という人は、南宋の頃にいた詩人で、そのころに流行っていた複雑で微妙な起伏のある静かでやわらかい詩風を得意としていました。かなり意訳してしまいましたが、夕方の秋の水面が、しずかに煙っていくような、ほんのりと寒くなる時間の霧の色をイメージしていただけたら嬉しいです。

 周密「聞鵲喜 呉山観濤」
天水碧。染就一江秋色。
鰲戴雪山龍起蟄。快風吹海立。
数点烟鬟青滴。一杼霞綃紅湿。
白鳥明辺帆影直。隔江聞夜笛。

天と水はひとつの秋色。大きい亀は雪と山を戴せ、龍は水底の穴から起きれば、
さらりとした風が吹いて、秋の霧を青く曇らす。
一ひらの赤い靄の湿り気、白い鳥の鳴く辺りの帆影、ぼんやりと夜に近づく笛の音。

 このほろほろとくずれてしまいそうなあわい色の霧のような詩をもとにして、水底によどんだ水藻のような色の石や、霧のような白い玉、ゆらゆらと波にゆられてそうな花と、水面から少しのびている草の茎のような形――などが絡みあっているアクセサリーって、もはや神品だと思います。

 しかも、秋の夕暮れの水面なので、どことなく停滞した大人しい色調なところも、すごく似合っていると思いませんか……。

 ちなみに、こちらの瓔珞は青ver.と赤ver.が色ちがいとしてあるのですが、緑はとんろりとたまった水の色、青はひややかな波の色、赤はひとかたまりの秋霧のような感じがして、どれもいいですよね。

まとめ

 というわけで、詩歌をデザインコンセプトにしたアイテムを、わたしの私物の中から三つ選んで紹介してみました。

 ファッションとして楽しむ上では、かならず知らないといけないことではないですが、もし知っているとそれぞれのアイテムへの愛着が一気に上がります。

 あと、詩歌を着るって、すごく文化的で貴族的であこがれます。教養って言葉も、どこかお上品な感じがして大好きです笑。これは私の持論だけど、教育はふつうの生活を問題なく送れるためのもの、教養は人生をより楽しむためのものだと思っています。そういう意味でも、文化は愉しむものだと思う(知識というより楽しむ感性のほうが何倍も大事だし本質的だと思う)

 ファッションって、そういう意味では、ただ着るだけのものではなくて、素材感や模様、色合いなどを楽しんだりもできる工芸品・芸術品だと思います。なので、アール・ヌーヴォーのランプや香水瓶、伊万里焼などの陶磁器などに近い楽しみ方をしてみるのも全然ありです(漢服や着物、ロリィタファッションって、特に実用品を超えた感じがあると思う)

 ちなみに、漢文や中国語がわからないor身の周りに漢文・中国語が読める人がいない場合は、このブログのコメント欄に詩を貼っていただけたら私が読むこともできます。なので、訳が知りたい方には、コメント返信でお伝えします(笑)

 中国の少し独特なファッション文化についての記事でしたが、こういう面もふくめて漢服ってすごく楽しいと思っています。みなさんのファッションの楽しみ方がさらに深まったら嬉しいです。

 お読みいただきありがとうございました。

ABOUT ME
nui
漢服愛好家。 埼玉の北のほうに棲んでます。漢服の魅力やコーデのつくり方、楽しみ方などを書いています。皆さまにも、上質で優雅なファッションで幸せな時間を楽しんでいただけるきっかけになったら嬉しいです。 クラシカルで貴族のようで、きちんと綺麗なファッションが大好きです。