おすすめ記事

【上級向け】コーデはコンセプトをきめる

 漢服愛好家のぬぃです。

 今回の記事では、ふだんわたしがコーデをつくるときに大事にしている「コーデのコンセプト」について書いてみます。(上級向けというけど、わたしが上級者かは別として、自分の中でかなり高度なテクニックというイメージです)

 コーデのコンセプトというと、「紫を基調にしたコーデ」だったり「落ち着いて知的な雰囲気」だったり、「エキゾチックな感じで」みたいなものをイメージすると思います。もちろん、そういうコンセプトで十分魅力的なコーデをしている人はたくさんいます。

 まぁ、わたしもそういうつくり方をするときもあるのですが、それだけだと何故か画竜点睛を欠くというか、もう一捻りほしい……という思いをすることがあります。そんなとき、さらに具体的にコンセプトを入れてみると、一気に複雑な深みだったり趣きが感じられる(気がする)コーデになることがあります。

 というわけで、ここからは実際の例をもとにしながら、コーデのコンセプトづくりについてご紹介していきたいと思います。

頽廃的な水門コーデ

 まず、初めから意味不明なコンセプトですが(笑)、これは家の近くの水門で写真を撮ってみたいと思ったときにつくってみたコーデです。コンセプトは「時代に取り残された旧世界の頽廃的な貴族コーデ」になっています。

 まず、その水門というのが、かなり頽廃的というか古めかしく重々しい姿をしていて、旧世界の遺物感があるのです(水門としての機能は今でも現役ですが)。どことなく、『千と千尋』の時計台みたいな趣きがあって、ちょっと物さびしくて幻想的です。特に夕方にみると、現代に不釣り合いな巨大さとあいまって、ちょっと不気味できれいだったりします。

 漢服も合わせ方によっては旧世界に淀んだ文化の滓みたいにみせられるかも……と思って、やってみたアレンジがこれです。

 まず、ネイビーを多めにしたのは、どことなく川底の澱みのような雰囲気を出してみたかったからです。さらに、首もとのアクセサリー(こういうタイプのネックレスを瓔珞といいます)は無駄に装飾過剰で、前時代的なごちゃごちゃと華やかで高貴なのか悪趣味なのかわからない雰囲気にしています。

 上衣の上にさらに短い上衣を重ねているのも、どことなく前時代の貴族の虚礼的で、古めかしいスタイルというか、無意味で贅沢な飾りっぽくていいかな……というコンセプトです。昔の貴族階級って、実用的ではない装いにたっぷり時間をかけて、表面ばかり飾っている形式主義っぽさが羨ましいですよね(笑)

 そんな晩霞のようなぼんやりと浮かんだ骨董ふうのお屋敷から、夕方にお散歩している……というときの様子をイメージすると、こんな感じの装いで過ごしてそうです(すべて想像の中だけど)

平安時代の古筆切コーデ

 これも意味不明なコンセプトだと思いますが、平安時代の書作品の美術館にいったときのコンセプトです。

 平安時代の書って、実は文字とならんで紙そのものがすごく優雅な色合いで魅力的なのです。これは、その中でもとくに有名なものなのですが、文字の裏にうっすらと柄が入っていたり、金を散らしたような色になっています。さらに、紙そのものも深みのある色になっていて、これらの紙は中国の宋から輸入されたものです。

 ちなみに、“古筆”とは平安~鎌倉時代の書の作品のことです。はじめは歌集などの形でまとまっていたのですが、しだいに細かく切り分けられていったので、「古筆切(こひつぎれ)」といわれるようになりました。

 というわけで、中国の紙の極彩色で重厚な色あいを漢服で再現してみたらいいかも、というのが、このときのコーデのコンセプトです。

 このとき、季節は4月だったので、ちょうど桜が咲いているときでした。なので、春っぽい色あいも残しつつ、古筆っぽい雰囲気も入れたいということで、古筆ふうの模様が入った生地をメインにして、その中にピンクのジャケットをいれてます。

 漢服の上衣の中にジャケットをかさねるって、なかなか邪道な組み合わせだという気もしますが、こういう意外な取り合わせが出せるのがコンセプトコーデの面白さです。

 このジャケットは、ピンクの生地に水色や金がうっすら入っているというものです。ピンクは微妙に桜っぽいし、わずかに金を織り込むあたりは平安時代の古筆っぽさもあります。

 さらに、古筆切には植物の模様が後ろにぼんやりみえることが多いので、ピンクのジャケットの花模様&薄緑の上衣の蓮葉模様が、それをどことなく感じさせる……というふうに、そのまま再現できていなくても、少しずつ斜めに雰囲気をつなげていくと、ふつうにコーデを組むよりも練り上げられた感じにできると思います。

 首もとのスカーフは、わずかに枯れ残っている下草だったり、春のちょっと土臭い感じとでもいうイメージです。上衣・馬面裙・瓔珞は、じつは水門のときのコーデと同じものなのですが、上衣の前をあえて閉めずに、中に着ているジャケットをみえるようにしておくと、ピンクだったり、金糸の模様が平安時代の紙のような組み合わせにみえそうです。

 ちなみに、平安時代の古筆には、“継ぎ紙”というものがあって、この記事のヘッダー画像はその継ぎ紙をした作品なのですが、狭い隙間にピンクやスカーフの色が詰め込まれているような配色は、その継ぎ紙のイメージっぽくしています(まぁ、そこまでしなくてもいいのですが笑)

上海の枯野コーデ

 こちらは、呉昌碩(ごしょうせき)という、中国の清代末期~民国期の画家・書家をみてきたときのコーデです。

 季節は冬だったので、重ね着がたくさんできて、漢服の重厚感と高級感がとても楽しめる季節です。呉昌碩の絵はこんな感じなのですが、かなりめっとりとした濃い色彩と、ちょっとぼそぼそしているというか、枯れた深みのある色が魅力的です。そして、植物を描いているのにがさがさとしていて、どっぷりと厚みのある茂り方をしています。

 なので、季節的に冬の枯れ野のような、草はたくさん茂っているのに、水気がなくて乾いた色合いにしてみます。

 このコーデのときは、馬甲(ベスト)の重ね着がとくに大事だったと思います。上衣で既にオレンジを入れていて、枯れ草っぽい色があるところに、さらに濃いオレンジを入れると、ちょっとオレンジ過剰というか、かわいた色になった葦が茫々と茂っている感じになって、呉昌碩のごつごつと枯れているのに濃厚で粘っこい感じになります(たぶん)。

 ちなみに、ほんとうにどうでもいい雑談なのですが、呉昌碩の書斎の様子をスケッチしたメモが展示されていたことがあって、それをみていたら「アヘンの吸入具」という文字が入っていて、ちょっと衝撃でした(笑)

 あの頃の中国、アヘン流行っていたとはいえ、まさか呉昌碩もアヘンを嗜んでいたとは思わなかったです。まぁ、アヘンを吸ってたからあの作品が書けたというより、日頃の練習があって書けたことは疑いないですが。何はともあれ、廃人にならずに済んでよかったです……。

 あと、呉昌碩は家族宛ての手紙すら、どこからか手に入れて表装されて芸術品として鑑賞されていて、そういう文化っていいなぁ……と思いました。そのときの手紙がまたお洒落な便箋をつかっていて、そういうセンスも大好きでした。

まとめ

 というわけで、コーデをつくるときはコンセプトをきめてみるというお話でした。

 もっとも、実際はこんな計画的につくっているというより、お出かけ前のときにいろいろな組み合わせを試してみて、その中でいい感じのものをコンセプトに寄せていくことになります。でも、完成形としてどんなイメージにしたいかを決めておくと、なんとなく組み合わせているときより、複雑で予想外のコーデがつくれることが多いです。

 特に、ジャケットの上に漢服の上衣をかさねるなどの一見奇妙な組み合わせや、上衣の前を閉めるかどうかなどの微妙な調整では、コンセプトがあるからこそ思いつくアレンジだったようにも感じます。とくに、細部の微調整で出せる匂いや趣きは、コンセプトがあると、一気に深みが出せるはずです。

 逆にコンセプトをきめずに、いろいろな組み合わせを、あれでもない、これでもない……と試しているときって、その組み合わせがどれもまとまりを欠くというか、散漫な印象になって迷走しやすいです。

 すべてのコーデをここまで練り上げる必要はないと思いますが、ちょっと特別なお出かけの日は、かなり気持ちの入った組み合わせにしてみるとすごく特別な思い出になるので、みなさんもぜひ試してみてください。

 ファッションって、所詮お金をかけないといけないのでは……という思いがあったとしても、限られた手札で誰も思いつかない組み合わせで、すごく複雑な表現ができるということを楽しんでもらえたら嬉しいです。あと、漢服はそういう表現がしやすいスタイルだと思ってます(もちろん、どんなスタイルに応用することもできます)

 お読みいただきありがとうございました。

ABOUT ME
nui
漢服愛好家。 埼玉の北のほうに棲んでます。漢服の魅力やコーデのつくり方、楽しみ方などを書いています。皆さまにも、上質で優雅なファッションで幸せな時間を楽しんでいただけるきっかけになったら嬉しいです。 クラシカルで貴族のようで、きちんと綺麗なファッションが大好きです。