漢服の基礎知識

漢服の種類とコーデづくり  アイテム編

 漢服愛好家のぬぃです。

 こちらの記事では、漢服のアイテムって、どんなものがあるのかについてご紹介していきたいと思います(私が購入経験がある明制漢服がメインのお話です)。

 さらに、それぞれのアイテムがどのような着こなしができるかなどについても、私の経験やネットでみてきたコーデなどを元にして、アレンジ例や魅力的にみえる組み合わせなども紹介してみます。

 ふだん漢服をあまりみたことがない方だと、どんなアイテムから漢服のコーデって出来ているのかわからなかったり、構造がイメージできないor着物との違いがわからないかもしれないので、すごく簡単な形で書いてみます。

 まず、明制の漢服は「衣と裳でできている」と思っていただいて大丈夫です。

 衣は上半身、裳は下半身なので、着物が上下で一つになっているのと大きな違いです。しいて着物にたとえると、羽織:衣、袴:裳という感じだと思ってください。それ以外のものは彩りをそえるアクセサリー的なものになります。

上衣

 衣(上半身)は、おもに「上衣」と呼ばれています。もしくは「袄(おう)/上袄」というときもあります。

 長さによって、膝くらいまでのものを「長袄」、腰くらいまでのものを「短袄」といったりします。明制の漢服では、襟の形によって「立領・交領・方領」の3種類にわけられています。

 まず「立領(立ち襟)」のものです。こちらは、首をかこむように高い襟がついていて、いわゆる“チャイナカラー”というタイプです。首もとには金属製のボタンがついていて、そちらを留めて着用します。

 首もとまできっちり詰まったデザインなので、きちんとした印象になります。それでも首まわりはけっこう余裕のある大きさになっていることが多いので、苦しいという感じはないので安心して大丈夫です。

(個人的には首がちょっと苦しいくらいきっちり着る感覚って、すごく好みなのですが笑。なんていうか、頑張っておしゃれして詰め込んだ感じって、幸せじゃないですか……?)

 ちなみに、こちらは膝くらいまでの長さなので、長袄の立領タイプです。襟まわりのファンデや汗が気になる場合は立襟のシャツやブラウスを中にあわせるのがおすすめです。

 つづいて、こちらは「交領(交わる襟)」のタイプです。このタイプはお着物の襟をイメージしていただくとわかりやすいのですが、漢服では帯がないので、身体の右側で紐を結んで留めています。

 こちらも襟まわりをきれいに着るために、スタンドカラーのシャツや、バイアス折りをしたスカーフを半衿ふうに挟むなどがおすすめです。

 もしくは、中に着物を着ても自然に馴染むので、和漢折衷コーデもできます。すでに着物をもっている方などは、交領のタイプから買ってみると、今もっているアイテムと混ぜて着られるのでおすすめです(室町時代ごろの日本では、明の緞子を着物にあわせて着ていたりするので、さほど変な感じではないはずです)

 最後に「方領(四角い襟)」です。こちらは、着物でいうところの道行コートみたいな襟の形になっています。このタイプのメリットとして、中に着ているものが見えるところがあります。洋装のシャツや着物などの柄やデザインが凝っているものを活かせるので、そういう意味でもぜひもっておきたいです。

 この方領タイプの上衣は、中に立領(立ち襟)タイプや交領(着物ふうの襟)タイプの上衣をあわせるコーデもできます。なので、寒い時期には、立ち襟シャツに立領or交領の上衣を着て、さらに方領の上衣を着るような重ね着も楽しめます。

 もしくは新中式の立ち襟ジャケットをあわせたり、胸元のスカーフの凝った結び方をみせながら着ることもできます。そういう着方をしたい場合は、すこし大きめサイズにしておくのもありですね。

 ちなみに、袄(上衣)の下に着る白い交領のものを「中衣」といいます。こちらは基本的に全体が白い色で、着物でいうところの襦袢のようなものです。おもに交領・方領タイプの内側に着ることが多いです。

 というわけで、明制漢服の上衣には「立領(立ち襟)・交領(着物の襟)・方領(道行コートの襟)」があります。立領はきっちり引き締まった高貴な印象、交領は着物とあわせたりもできるタイプ、方領は中に着ているものがみえやすいので立領や交領の上衣をあわせたりもできて、コートのような着こなしもできるという特徴があります。

 それぞれのタイプで得意な着こなしが違うので、迷ったらまずはそれぞれ1種類ずつ買ってみるのがおすすめです(笑)

馬面裙

 明制漢服では、裳(下半身の衣服)は「馬面裙」といわれています。裙(くん)はスカートという意味で、「裙子」などと言ったりもします。

 いちおう、この名前の由来をご紹介しておくと、「馬面の形をした裙(スカート)」という意味なのですが、この「馬面」の由来は二つの説があります。

 ひとつは、“馬の顔のように縦長な”という説です(これは言うまでもないですが)。もう一つは城壁から出っ張っている櫓の下に“縦長の台形に出っ張った石垣”があり、その形が馬の顔に似ていたので「馬面」と呼ばれるようになり、さらにスカートの形がその石垣に似ていたので、「馬面裙」と呼ばれるようになったというものです。

 形としては、プリーツの入ったマキシ丈スカートを思い浮かべてもらえれば近いです。さらに、ふつうのスカートと異なる点として、着物の前合わせのように身体に巻き付ける構造になっています(ウエストは紐で結んでいるので、多少誤差があっても着られるようになっています)。

 馬面裙はあまり形による違いはないのですが、生地の量によって裾まわりが“4.5mタイプ”と“6mタイプ”にわかれます(通販サイトでは「4.5米摆」「6米摆」などと書かれます。摆は「襬(音:ひ。本来はスカートの意。現代中国語では“スカートの裾”)」の簡体字です。

 裾まわりが4.5mタイプと6mタイプの違いとしては、こんな感じです。

  • 4.5mタイプ:使っている生地の量が少ないので、プリーツが少ないor小さい(6mと比べると)。日常シーンでもあわせやすい。軽やかな印象
  • 6mタイプ:使っている生地の量が多いので、プリーツが多い&深い。歩くとプリーツが光を映して複雑な陰翳をつくる。より重厚でおめかしシーン向き

 4.5mタイプでも、かなりたっぷりな生地を使っているので、全然物足りない印象はないので大丈夫ですが、6mタイプのきらきらと複雑な耀きは一度みると虜になります(笑)。6mタイプでも重くて疲れるということはないので、お好みの印象で選んでいただいてOKです。

 余談ですが、初めて馬面裙を買ったときは、こんなにたくさんの綺麗な生地が複雑に縫われていて、それでいてすごく着心地もよくて、こんなに素敵な装いがこの世にあるのか……って感動した覚えがあります(そのとき買ったのは4.5mタイプでした)

 上の写真が4.5mタイプ、下の写真が6mタイプです。プリーツの数が6mタイプのほうが多くて、さらに一つ一つが深い襞になっています。歩くと6mタイプのほうが、だらだらひらひらと揺れて幸せです。

 馬面裙は一枚でもすごく目を引くコーデができるのが、本当に魅力的です。上に着るのは、ふつうのシャツやジャケットでも似合うので、上衣をいきなり買うのはハードルが高い場合は、馬面裙からスタートしてみるのもありです(わたしはそうでした。ちょっと変わったボトムを穿いているくらいの感覚にも馴染ませられます)

 どうでもいいですが、まだ上衣を買う前の時期でも、旅行先で馬面裙を着ていたら、御朱印を貰いにいった先でも、こちらから御朱印をお願いする前に「そのスカート好き!」といきなり言ってもらえたり、電車の中で視線を独り占めだったり(奇異の目でないことを祈るけど)しました。なので、似合わせやすさや着回しも含めて、はじめての漢服は馬面裙から始めるのがおすすめです。

馬甲

 中国語で「馬甲」はベストの意味です。「背子・背心・比甲・馬夾」などということもあります。

 ちょっと意外かもしれませんが、漢服ではベストは上衣のさらに外側に着ます。洋装のベストが、ジャケットやコートに隠れるように着ることに比べて、漢服のベストは一番外側にあって最も装飾的な役割になっています。

 なので、模様もかなり凝ったものが多く、上衣よりきらきら感のある生地を用いていることもあります。この雰囲気をうまくあらわしている文章として、こちらをみていただくとわかりやすいです。

 当時わたくしは若い美貌の支那人が、辮髪(べんぱつ)の先に長い総(ふさ)のついた絹糸を編み込んで、歩くたびにその総の先が繻子の靴の真白な踵に触れて動くようにしているのを見て、いかにも優美繊巧なる風俗だと思った。はでな織模様のある緞子の長衣の上に、更にはでな色の幅びろい縁を取った胴衣を襲(かさ)ね、数の多いその釦には象嵌細工でちりばめた宝石を用い、長い総のついた帯には繍取(ぬいとり)のあるさまざまの袋を下げているのを見て……(永井荷風「十九の秋」より)

 これは清代末期の様子なのですが、「はでな織模様のある緞子の長衣の上に、更にはでな色の幅びろい縁を取った胴衣を襲(かさ)ね」ているのが“上衣の上のベスト”です。荷風先生のいうとおり「優美繊巧」で無駄な飾りに満ちた美しさにあふれていて大好きです。

 もちろん、ふつうのシャツの上にベストとして着るのもOKです。あと、夏に上衣を着ると暑いときは、シャツの上にベストだけでも十分コーデが成り立つので、そういう意味でもおすすめです。

 こちらはわたしの私物のベストなのですが、生地の光沢感・すべすべ感が着ていて幸せになれます。最後に余計なお飾りを一層加えるひと手間が、優美で繊細な気持ちになれる時間です。

雲肩

 この雲肩は、明制漢服でかならずあった方がいいわけではないのですが、アクセサリー的に入れる飾り襟です。

 通販サイトだと「云肩」とかかれていることが多いのですが、「云」は雲の簡体字なので、「肩まわりにある雲のような飾り襟」という意味になります。

 緞子でできていたり、刺繍がたくさん入っていたり、玉飾りがたくさんついていたり……のようにデザインの種類もたくさんあります。わたしのもっているのは緞子でできているタイプです。

アクセサリー

 漢服にあわせるアクセサリーは、本音をいうと何でもOKだと思っているのですが、いちおう中国風のデザインのアクセサリーがあります。

 中国風のアクセサリーの魅力として、かなり濃い色の石が入っていたり、ちょっとゴテゴテしたデザインになっているので、生地のきらきらと濃い模様に埋もれないことがあります。

 特に漢服では、ネックレスを上衣の上からつけることになるのですが、ふつうのネックレスって、かなり線が細いので、派手な柄のものに合わせるとアクセサリーが目立たなくなってしまうという難点があります。

 そんなとき、中国風のアクセサリーだとそれなりに主張があって極彩色のコーデをさらに引き立ててくれます(ふつうのネックレスは、上衣の上につけることを前提にしてないけど……)

 さっきのベストのときも思ったかもしれませんが、漢服では上衣の上にさらに装飾をかさねていく……というコーデのつくり方をします。なので、中国風ではなくてもアクセサリーは色が濃かったり、大ぶりな漢服の柄に似合うものを選んでおくと、全体の濃烈な雰囲気に似合います。

(現代の日本では、ほとんど味わうことのない色彩感覚なので)漢服コーデの色彩感覚をとてもうまく伝えてくれる文章として、これを読んでいただけると、漢服がただガチャガチャと不調和で下品な極彩色なのではなく、色彩と色彩が深く絡みあっている美しさのあることが感じられると思うので、アクセサリー選びの参考にしてもらえたら嬉しいです(笑)

 支那人はまた玉と云う石を愛するが、あの、妙に薄濁りのした、幾百年もの古い空気が一つに凝結したような、奥の奥の方までどろんとした鈍い光りを含む石のかたまりに魅力を感ずるのは、われわれ東洋人だけではないであろうか。ルビーやエメラルドのような色彩があるのでもなければ、金剛石のような輝きがあるのでもないああ云う石の何処に愛着を覚えるのか、私たちにもよく分らないが、しかしあのどんよりした肌を見ると、いかにも支那の石らしい気がし、長い過去を持つ支那文明の滓(おり)があの厚みのある濁りの中に堆積しているように思われ、支那人がああ云う色沢や物質を嗜好するのに不思議はないと云うことだけは、頷ける。(谷崎潤一郎『陰翳礼讃』より)

 この感覚を知っていると、イヤリングやネックレスだけでなく、かんざしやブローチ、スカーフリングなどを選ぶときにも、どろりと濁りを帯びた色彩のアクセサリーを重くとけあったようなコーデに混ぜていく……という組み方が少しイメージできると思います(出来ないけど、という声もあるかもですが笑)

 というわけで、漢服のアクセサリーを選ぶときの大事なこととして、上衣や馬面裙の重厚で濃鬱な色彩に似合うようなものとして、ほんのりと濁りや重みがある色合いで、ゴテゴテと沈んだ翳りがあるものを選ぶと、中国風のどんよりと深みのある雰囲気になります。

 中国ふうのアクセサリーをふだんの服にあわせると、ゴールドの使いすぎや大きいブローチって俗悪な成金趣味とかケバケバしい悪趣味さにみえるかもですが、濃いよどみの中でいろいろな部分が少しずつ底光りしたり、ぼんやりと練り合わされた配色って、すごく魅力的だと思います♪

 漢服のお色選びについては、こちらの記事にくわしく書いているので、参考にしていただけると幸いです。

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お帽子

 あと、必須というわけではないのですが、漢服にぜひあわせていただきたいのが、“お帽子”です。

 中国風のヘアアレンジとは別に、意外と漢服に相性がいいと思います。特にボンネットやつばの広い帽子、クロッシェなどのクラシカルなデザインのものが漢服にかなり似合います。

 これは一種の漢洋折衷コーデになるのですが、中国でもわりと取り入れている人がいたりします(通販サイトのモデルの方もやっていた気がします)。

 つばの大きい帽子って、日頃のコーデではほとんど身につけることがないと思うのですが、昔の上流階級の方たちがお出かけ前におめかしをするような感じで、頭にのせてみるとコーデが一気に気品をおびたような印象になるので、本当におすすめです。

 ボンネットは、ロリィタファッションなどで着けている方が多いので、もっているアイテムが漢服にも活かせたりする意味でもおすすめです。クロッシェは大正時代に流行った帽子で、ころんと丸い形が漢服の優雅で高級感あふれる雰囲気とすごく合います。

 もしくは、ミニハットやトーク帽などのクラシカルで上品な雰囲気のものは、わりと何でも似合うことが多いです。帽子って、ちょっと気取っているみたいで最初は恥ずかしいですが、漢服の重厚な雰囲気とバランスが良かったりします。

 あと、顔が縦長だったり、大きかったり、……のようなことが自分の中で気になる方も、帽子でカバーできるというメリットがあります。帽子で顔の形をごまかせる上に、帽子をかぶっても自然な装いになっているので、すごくよく馴染みます。

 というわけで、漢服にあわせてみると意外と似合うのが、お帽子です(細かいことをいうと、漢服のアイテムではないですが……)。

まとめ

 かなり長い記事になってしまいましたが、漢服のおもなアイテムと、その特徴について書いてみました。簡単に整理するとこんな感じになります。

  1. 上衣:立ち襟・着物ふうの襟・道行コートふうの襟にわかれる。道行コートふうの上衣は、立ち襟タイプと着物ふうのタイプの上に着ることもできる。
  2. 馬面裙:4.5mタイプと6mタイプがある。4.5mタイプは日常づかい向きで、プリーツが小さくて少ない(それでも十分上品で高貴です)。6mタイプはより華やかで陰翳が豊か、プリーツが多くて深い。
  3. 馬甲:ベストのこと。シャツの上に着るのもできるし、上衣の上に装飾的にあわせることもできる。
  4. 雲肩:上衣の上にかさねる飾り襟。かならず着けるわけではないけど、あると華やかさupです。
  5. アクセサリー:中国風のアクセサリーの特徴として、濁った濃色の石やゴテゴテしたデザインになっていることがあり、色彩豊かな上衣にあわせても埋れない魅力があります。深みのある色彩と重厚な形のものなら、中国風ではなくてもOK
  6. お帽子:意外と漢服には、ボンネット・クロッシェ・トーク帽などのクラシカルできちんとした雰囲気のお帽子が似合います。全身の雰囲気がおめかしっぽいので、気取って装うくらいの気持ちが大事です

 途中で、かなり細かい似合わせ方などの話もしてしまいましたが、これ以外にもいろいろな着こなしができたり、いろいろな系統のアイテムやセンスを混ぜて新しい着こなしができるはずなので、この記事の内容にこだわらずに皆さんも楽しんで自分なりの着こなしをみつけてもらえたら嬉しいです。

 あと、すごく余談なのですが、6mタイプの馬面裙について「強迫症の人は、そのプリーツの細かさに耐えられないだろう」的なことをネタ的に書いている記事をみて、あんなにきれいなのに苦手な人っているんだなぁ……と思ってました。だからどうするという訳でもないのですが(笑)

 というわけで、お読みいただきありがとうございました。

ABOUT ME
nui
漢服愛好家。 埼玉の北のほうに棲んでます。漢服の魅力やコーデのつくり方、楽しみ方などを書いています。皆さまにも、上質で優雅なファッションで幸せな時間を楽しんでいただけるきっかけになったら嬉しいです。 クラシカルで貴族のようで、きちんと綺麗なファッションが大好きです。